『 海に ― (2) ― 』
こつ〜〜〜ん 〜〜〜〜〜〜 ・・・・
高い石造りの天井に その音はいつまでもコダマしていた。
広く そして ひんやりとした部屋には他に音はない。
「 ・・・ つまらん。 」
ほのかに青い衣をまとった青年は 小さくつぶやくと立ち上がった。
「 ・・・・・・ 」
ちりん。 彼は手元の鈴に触れた。
「 ・・・・ 」
ごく小さな鈴の音に応えたのかほんの微かな衣擦れの音がして 帳の前に下僕が現れた。
「 今回の獲物 いつもと同じに捕獲しておけ 」
「 ・・・ 」
下僕はだまってアタマを下げ 退出しかけた。
「 あ・・・ クルーを引きだしておけ。 ふん ・・・ あの渦巻きにあれだけ
抵抗したから どんなに優れたフネかとおもったのだがな ・・・
ただのクルーザーか ・・・ つまらん。 」
「 ・・・・・? 」
下僕は少し首を傾げ 彼の主を見上げた。
「 あ〜〜 ・・・ 少し取りおけ。 もう使いモノにはならんだろうが ・・・ 」
「 ・・・ 」
「 新しい獲物を 見たい。 ・・・ 生きておれば だが 」
「 ・・・ 」
下僕は再び畏まると 音もたてずに帳の向こうに消えた。
「 ふ ・・・ 退屈凌ぎに なる かな 」
ふぁさ。 彼は少しだけ首を傾げると 衣を靡かせ部屋を出た。
プラチナ・ブロンドの髪がちかり、とほの暗い灯を受けて煌めいていた。
巨大な王宮は 無表情な静けさと冷気がどんよりと、それこそ海の底の水のごとく
いつもいつも淀んでいるのだった。
こつ こつ こつ −−−−−
青年はほの暗い廊下を進んでゆく。
行き交う存在はなく 時折下僕らが壁際で蹲り彼を見送るだけだ。
「 ふん ・・・ ああ この空気にも飽き飽きしたな ・・・ 」
ひくく呟きつつ 彼は階段を降りてゆく。 ― 空気が一段と重く冷え冷えとしてきた。
「 開けろ 」
大きな扉の前には 簡単な武装をした兵士が立っていた。
「 ・・・ ! 」
彼らは低頭すると さっと左右に別れ扉の端に降れた。
ゴ ゴ ・・・・ 低い音と共に石の扉が開いた。
「 ここで控えていろ。 必要な時までここにいろ 」
「 ・・・・ 」
再び低頭する兵士を後に 青年は奥に進んでゆく。
「 ふん ・・・ どうせまた奴隷溜りに送るだけ だろうがな ・・・
いやそれとも遺棄するだけか ? おや ・・・・ 」
トン。 奥の帳の向こうから微かに音聞こえた。
「 ― 抵抗は諦めろ。 自分の首が締まるだけだぞ 」
彼は声を上げると 足を早めさっと帳をめくった。
シュ ・・・・ ! 空気が揺らぎなにかが背後に跳んできた。
「 ・・・ 静かにしろ! 」
赤い影が 青年を羽交い絞めにした。
「 ここから出せ。 解放しろ 」
「 ふん ・・・ これは威勢がいいことだな。 あのスクランブルの後でも
これだけ素早く動けるとは ・・・ 」
「 ! 言葉が通じるのか! ともかくここから解放しろ! 」
後ろからの拘束にチカラが加わった。
「 諦めろ。 己で己の首を絞めるぞ 」
「 それはこちらのいうことだ! 手荒らなことはしたくないが ・・・ 」
「 ・・・ やれやれ 聞き分けのないヤツめ 」
ヴィン 〜〜 青年は左手にはめている腕輪に触れた ― その途端
「 ! う ううううう〜〜〜〜〜 ・・・ 」
「 〜〜くぅ 〜〜〜〜〜〜 ! 」
帳の影から もうひとつ、少し小さめの影が転がり出てきた。
石床に上に 赤い影がふたつ、首をおさえのたうち回っている。
「 く 首に 〜〜・・・ 輪が ・・・ 」
「 ・・・ く 喰いこんで ・・・・ 息が ・・・ 」
かつ かつ かつ ・・・ 青年は赤い影から離れた。
「 ふん ・・ だからやめろ、といったはずだ・・・ 」
青年は 衣の乱れを整えると 目の前の二つの < 影 > をじっと眺めた。
「 これは ― ツガイなのか? ・・・ ふん 殺すのにも飽きた ・・・ 」
ヴィ・・・・ 再び彼が腕輪に触れると 影たちの動きが止まった。
「 ・・・ ふ ぅ 〜〜〜〜 ・・・ だ だいじょうぶ かい 」
「 ・・・ ・・・ え ええ ・・ 」
「 こっちに ・・・ ぼくの後ろに隠れろ 」
「 ・・・ じょ ・・・ 」
大きな影は小さい方ににじり寄り 背後に庇う。
「 ふん? これで誰が主かわかっただろう。 」
「 お 前 は ・・・ 言葉が通じるとは ・・・ 」
茶色の髪をした赤い影はよろけつつも立ち上がった。
「 ほう? 随分と回復が早いものだな。 ニンゲンではないのか 」
「 ・・・ ぼく達は ・・・ 人間だ! お前こそ ・・・
いや ここは海の中 なのか ・・・ 」
「 ・・・ ここまで生きていたことを褒めてやるぞ。
いいか 音をたてる会話をやめろ 」
「 ・・・・ な んだって? 」
「 下品な音をたてるな。 こころの中で語れば通じる 」
「 ・・・ お オマエは 音声で会話している じゃないか 」
「 われは 王者である。 この海の底では王族のみが声をたてることができる。 」
「 !!?! 」
「 しかし なぜお前らはここまで生き延びたのだ?
お前らのフネはごく普通のものだった ・・・ 海の底に沈む専用のものとは
思えない。 やはり オマエらはインゲンとは別のモノなのだな 」
「 ちがう。 ぼくたちは 人間だ。 」
「 ・・・ わたし達は サイボーグ。 人間だけど一部を機械で補強しているの。 」
いつのまにか茶色の髪の影の前に 一回り小柄な姿が立っていた。
「 ふ フラン ! 」
「 わたし達は人間よ。 あなた達とおそらく同じ ・・・ 」
「 ぶ 無礼な! 我はお前たちなどとは同じではないっ
我らは選ばれし海の人間なのだ。 」
「 わたし達とどこがちがうの? 海の底 と言ったけれど ここは ・・・
空気が満ちた空間だわ。 」
「 ふん ! 我々は海の水から酸素を作りだし このドーム都市に満たしている。
オマエたちにはできないことだ。 」
「 ― では なぜ海から上がってこないの?
」
「 海の中ほどの広さ そして 静けさが あるというのか?
我らは 自ら選んで海の底に生きているのだ。
海の上のことを なにも知らないとでも思っているのか 」
「 それならば なぜ ・・・ わたし達の世界の船を引きこむの?
興味なんかないのでしょう? 」
「 ・・・ ふふん ・・・ ただの退屈凌ぎだ。
ああ 五月蠅い ・・・ お前らに構うのではなかったな ・・・ さあ
さっさと奴隷溜りへ連れてゆかせよう ふふん 力仕事に役だつだろうよ。 」
・・・・ 青年、 いや 王は手元の鈴に触れた。
カタン ― 石造りのドアが静かに開いた。
「 ・・・奴隷溜りへ 」
「 ・・・ ! 」
現れた下僕が さっと飛び下がった。
「 あら ・・・ また陛下の気まぐれが始まりましたのね。 」
衣擦れの音とともに 高い声が聞こえた。
「 ??? ― そなた か ・・・ 」
「 ? 女性 ・・・か ? 」
「 ・・・ このヒトも音声会話をするのね ・・・ ということは 」
「 あら 珍しい ・・・・ 活きのいい奴隷ね。
そこの ・・・ オマエ。 わたくしの供をしなさい。 」
女性は フランソワーズをじっと見つめた。
「 勝手なことを ― ! 」
「 どうせ奴婢だまりに落とすのでしょう? それでしたらわたくしの供をさせます。
ついておいで
」
「 ・・・ あ あの ・・・ 」
「 おいで。 では シツレイいたします 陛下。 」
膝を折ってやたら丁寧に会釈をすると 女性はフランソワーズを一瞥した。
「 奴婢溜りにゆきたいの? お い で。 」
「 ・・・・・ 」
フランソワーズは きゅっと口を結ぶと女性の方へ歩いてゆく。
「 ! ≪ フラン! 行くなっ ≫
ジョーは途中から脳波通信に切り替えた が ・・・
≪ だめ。 筒抜けよ。 ここのヒト達には聞こえてしまうみたい ≫
「 そのようだぞ。 オマエたちの内緒話は 我らにもようく聞こえる 」
王は シニカルな笑みを少し浮かべたが すぐに煩さそうに手を振った。
「 もういい。 下がれ。 オマエは妃に付いてゆくがいい。
そっちのは ― そうだな 我の供をせよ。 」
「 ! な んだって?? 」
「 ふん ・・・ 逃げ出せないのは先ほどでようく分かったはずだ。
この地にいる限り オマエらは我の支配下なのだ 」
「 く ・・・ ! これ だな? えい ・・・! 」
ジョーは首に絡みついているリング状のものを力いっぱい引っ張った。
「 無駄だ。 どんな力を掛けても それは破壊できない。
オマエの身体が損なわれるだけだ ― たとえ 機械の身体でも な 」
「 ・・・ くそ〜〜〜〜 」
コ ― ン ・・・ 石の扉が閉じ もう先ほどの女性の姿はなかった。
「 フ フラン ・・・! 」
「 ・・・ 気になるのか 」
「 当たり前だっ! あのヒトは なんだ? 」
「 無礼もの。 彼女は我妃、 海の王国の王妃だ。 」
「 ・・・ 王妃?? 」
「 あれがなにをしようと 我には関係ない。 おい ― 散歩する。
ついてこい。 ― もう一度だけ言っておくが 逃亡は不可能だぞ 」
「 ・・・ ふ ん ・・・ こっちもバカじゃないからな ・・・
アンタに逆らうのは無駄ってことだ ― 今のところ ね 」
「 オマエらは 今まで捕まえたモノとは違う・・・ 本当に人間なのか?
不思議な会話もしていた 」
「 ぼく達は ― サイボーグ だ 」
「 それは先ほど 聞いた。 サイボーグとは機械人間のことなのか 」
「 ちがう。 身体に機械が入っているがぼくを支配するのは生身のぼく自身だ
ぼくは自分の意志で機械の身体を使っている。 」
「 ふん ・・・ わたしには興味はない。 我が王国を見せてやろう。
供をせよ。 」
「 ・・・・・・ 」
ジョーは 黙って王の後ろ、数メートル離れ付き従った。
こん こん こん ・・・・ 石床に固い足音が響く。
「 ん〜〜〜 ああ イヤ・・・ この音は本当にイライラするわ 」
王妃は急に止まると ぽい、と靴を脱ぎ捨てた。
「 さあ これで耳障りな音は消えるわね。 オマエもその重苦しいの、脱いでもいいのよ」
「 ・・・ いえ わたしは ・・・ 」
「 そう? それなら足音をたてないでね? わたくし、この固くて冷たい音が
大嫌いなのっ! 」
捨てた靴もそのままで 彼女はすたすた歩き始めた。
「 あ ・・・・ 」
フランソワーズは あわてて靴を拾い集めると妃の後を追った。
「 あ〜〜 ・・・ ちょっと疲れたわ 」
王妃は 無造作に道端の花壇の縁に腰をかけた。
「 ねえ オマエ。 なにか歌でも歌ってちょうだい。
この静けさにはもう飽き飽きしているの。 空気まで重いのよ 」
「 ・・・ 静けさを破ってはいけないのではありませんか 」
「 ふん ・・・ わたくしが許可した、と言えば誰もなにもいわないわ。
さあ なにか歌って。 心の中じゃなくてちゃんと声だして 歌うのよ。 」
「 ・・・ どんな歌を? 」
「 なんだっていいわ。 」
「 ― では わたしの故郷の古い歌を ・・・・ 」
フランソワーズは 大きく息を吸うと フランスの古い旧い子守唄を歌い始めた。
〜〜〜〜〜 ♪♪ ・・・・ ♪♪♪
どんよりと漂っていた空気が 震える。 澄んだ歌声に 穏やかな節回しに
そして 優しい言葉に ・・・ 冷たく淀んでいた空気が 震えた。
こつ こそ こそ ・・・・ ひそやかに人々が寄ってきた。
皆 蒼白い皮膚にカサカサした衣を纏っているが ― 彼らの王妃を認めると
腰を低く会釈をする。 すこし後ずさりするモノもいた。
「 いいのよ。 皆のもの ・・・ 耳を澄まして聞くのよ 」
王妃は 声を出して民たちに語った。
「 よく聞いて ― 音が満ちている世界を想い描いて ・・・
音って こんなに素敵なの。 皆 聞いて 」
・・・ このヒトは ・・・ 他の人々とはちがう わ
全体の雰囲気も ・・・ 髪や皮膚の色も ・・・
もしかしたら。 ― 地上から来た人なの?
フランソワーズは 歌いつつ王妃をじっと見つめていた。
白い、蒼白い横顔は美しく、豊かな睫が濃い影を落としている。
あ? ・・・ 大地の色の瞳をしていた・・・?
他のヒト達は あの王も 皆 薄い色なのに ・・
― やはり地上から連れてこられたヒト なのかしら
ざわ ざわ ざ わ ・・・・
最初は驚いた風な表情をし 固まりあってた人々が だんだんと穏やかな表情になってゆく。
ゆら ゆら ・・・ フランソワーズの歌にあわせ ゆっくり身体をうごかすヒトも
でてきた。
「 ね ・・・ 音って素敵でしょう? 静けさ が一番ではないのよ 」
王妃は目を閉じ 歌声を味わっているみたいだった。
「 〜〜〜。 ・・・・ これでおわりです 」
「 ・・・ ありがとう ・・・ 」
つつつ ・・・ 王妃の瞳から涙の筋が 一筋こぼれ落ちた。
こそ こつ こつ ・・・ 民たちもわずかに表情を緩め 再び会釈をすると
密やかに散っていった。
「 あのモノたちの心にも 少しは温かさが染みたかしら 」
「 ・・・ あ あの ・・・ 静けさが一番 って ここではそうなのですか 」
「 そうよ。 声を出してよいのは王族だけ。 民たちはいつも湿った重い空気の中で
ひんやりした皮膚で薄い色の瞳を伏せて静かに生きているの。 ・・・もう沢山だわ! 」
王妃は立ち上がり ぱっと目を開いた。
濃い色をした大きな瞳だ。
わあ ・・・ キレイなセピアの瞳ねえ ・・・
・・・ ふうん? ジョーの目より 深い色かも
かなりぶしつけに見つめているフランソワーズに 王妃は薄く笑った。
「 ふ ・・・ もうわかったでしょう? わたくしは 地上の人間よ。
オマエ達と 同じ ね。 」
「 まあ! それでは 」
「 そうよ。 あの王に拾われた ・・・ 本当なら海で命を落としていたわ。 」
「 え??? じゃあ ・・・ あの大渦巻に巻き込まれて?? 」
「 違うわ。 わたくしは帆船で大洋を横断していて・・・ 船同士の衝突で
海に投げ出され沈んだのよ。 」
「 まあ ・・・ よほど海流が激しい場所だったのですか? 」
「 ・・・ よくわからないわ。 ただ ・・・ わたくしはどうしても捨てることが
できないものをもっていたの。 そのために溺れてしまったのね。 」
「 ・・・・ 」
「 気がついたら ここにいたわ。 この・・・奇妙な王国に捕らわれていた・・・ 」
「 ・・・ 王が助けてくださったのですか? 」
「 さあ ・・・ わからないけれど。 奴婢溜りに落とされなかったのは
わたくしが海に関する名前をもっていたからだって ・・・ 言ってたわ。 」
「 そう なんですか 」
「 オマエ ・・・ 歌が上手ね。 歌手とかなの? 」
「 え?? いいえ わたし、そんなに歌は得意じゃありません。
さっき歌ったのは ・・・ わたしの故郷に伝わる古い歌で・・・
母がよく口ずさんでいたものです。 」
「 ああ ・・・ それでとても優しくて暖かい音なのね ・・・
ね その奇妙な服は なに? なにか・・・軍隊の制服みたいにも見えるけど 」
「 これは ― サイボーグ戦士の防護服です。 」
「 ?? さ いぼ ぐ?? わからないわ〜〜
オマエたちの船もとても変わっていたわね 」
「 え ・・・ ごく普通のクルーザーですけど ・・・ 」
「 くる〜ざ〜??? あんな小さな帆船があるの? 」
「 いえ・・・ 帆はありますけど・・・それは補助的なものです。
普通はエンジンで航行するのです。 」
「 えんじん?? ああ わたくしにはわからない言葉ばかりね 」
「 あのう ・・ 貴女はもうずっと・・・ここにいらっしゃるのですか 」
「 それが ね よくわからないの。
ここでは 時の流れも地上とは違うらしいの 」
「 まあ ・・・ あの ― 貴女が海の旅に出たのはいつですか? 」
「 そう ねえ ・・・ あれは確か ・・・ 」
彼女が考え 考え呟いた日付は 19世紀のものだった・・・
え ― ・・・・!
このヒトも ― 時の流れを 超えてしまった・・・?
フランソワーズは 胸がし・・ん として思わず目を伏せてしまった。
王妃はちょっと怪訝な顔をしている。
「 ?? ねえ オマエ ・・・ いえ アナタの名前 教えてくださる? 」
「 わたしは フランソワーズ といいます。 」
「 フランソワーズ ・・・ 柔らかな音ね ・・・
ねえ わたくしの友達になってくださる? 」
「 はい。 あ でも ・・・ 一応は王妃様の侍女っていうことで 」
「 あら 気にすることないわよ 」
「 いえ でも ・・・ 周囲の目もありますし 」
「 そう ね ・・・ ふ ・・・・ 王妃っていってもね、 形だけよ。
あの独裁者は 獲物を飾るみたいな気分で ― わたくしを王妃として扱っているわ
地上の人間を側に置いている、 支配しているってね。 」
「 まあ ・・・ あの ・・・ 愛していらっしゃいますか 」
「 ! そんな感情、 もってないのじゃないの? 」
「 さあ ・・・ でも アナタを助けたのでしょう? 」
「 それは ね。 わたくしの名前のため、それだけよ。 」
「 そうでしょうか 」
「 ・・・ だって他に理由は考えられないもの ・・・ 」
「 アナタは 地上ではなにをしていらしたのですか 」「
「 わたくし? ― 王宮に伺候する楽師 だったわ 」
「 まあ素敵ですね! あ ・・・ それじゃ 海に落ちた時に一緒にもっていたのは
もしかして アナタの大切な楽器、ですか 」
「 ふふ ・・・ カンがいいのね。
そうよ わたくしは 命より大切な竪琴と一緒に ― 海に沈んだの ・・・
ああ ・・・ あのまま海の泡になってしまえばよかった・・!
」
「 だめです そんなの。 わたし いつかアナタの竪琴の音を聞きたいです。 」
「 ・・・ ふ ・・・ ありがとう ・・・・ でも竪琴は王が取り上げてしまったわ
どこにあるかわからない の。 」
「 まあ ・・・ 」
「 ね 王宮に戻ってまた歌って? 」
「 あ〜〜 あの。 わたし ― 歌うよりも踊る方が得意なんです。 」
「 踊り?? あら素敵ね! ねえ 地上の話、してちょうだい。
わたくしの部屋なら 誰も邪魔しないわ。 」
「 ええ ・・・ 王妃さま。 なんとかここから脱出できませんか 」
「 ― それは 無理。 アナタの首輪が逃がさないわ。 」
「 ・・・ アナタは? 」
「 わたくしは ― あの竪琴を置いて逃げることはできない ・・・
さあ ・・・・ そろそろ戻りましょ 無用な詮索されるのは不愉快でしょ 」
「 はい。 ではお供いたします。 あ どうぞ靴を ・・・ 」
「 ・・・・・ 」
王妃は差し出された靴を履くと 重い足取りで道を引き返し始めた。
こん こん こん ― 静けさの中 王妃の靴音だけが響いていった。
Last updated : 09,13,2016.
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********* 途中ですが
短くてすみませぬ〜〜〜 (;O;)
ハナシは どんどんあらぬ方向に逸れはじめた・・・